雪の朝

寒い朝。


明け方、こちらでもほんの少し雪が降ったのですが、すぐにみぞれに変わり、陽も差してきて、どうやら積もる気配はないみたいです。 それでも、久しぶりに雪を見たのが嬉しくて、ぴょんぴょん跳ね回る息子。


君はたくさんたくさん雪が降る街で生まれたんだよ…と話しても、何だかぴんとこない様子できょとんとしている。 それはそうだよなあ。 1歳の誕生日を迎える前に、引っ越してしまったんだから。 あたためた車のチャイルドシートに赤ちゃんだったちびを座らせて、車を雪山から掘り出した日が、まるで昨日のことみたいに感じるのに。


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いよいよ産み月が近づいて、階段の上り下りもきつくなってきた。 今月、わが家は自治会費の集金当番で、エレベータのない建物を5階まで上り下りして、各家を訪ねて回らなければならない。 あいにく夫は出張中。 どうしようかなあ…とひとりごちていたら、ちびが颯爽と上着を羽織り、「ぼくが行ってやるよ!」とついてきてくれた。


ちびの身長は、まだ玄関の覗き窓に届かない。 それで、訪ねた家の人がちびの存在に気づかず、内側から勢いよく開いたドアに何度か鼻をぶつけながら「だいじょうぶ!」と泣くのをがまんして最後まで付き合ってくれた。 1人で上ると苦しい階段が、ちびと一緒だとなぜかちっともつらく感じなかった。 自分の子だけど、何だかいいやつに育ったな。


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今朝は出がけに家の鍵が見当たらなかった。 慌てて探していたら、「ぼくが探してやるよ!」と外に駆け出していったちび、昨日歩いた階段や公園、ゴミ捨て場まで、雪の舞う中一生けんめい走って探してくれた。 鍵は結局、私のコートのポケットに入っていた。 昨夜、集金のときあまりにも寒かったので、いつもと違うあたたかいコートを引っ張り出して着たのだけど、そのポケットに鍵を入れたままクローゼットに戻してしまったのだ。


「お母さんうっかりしててごめんね」と謝ったら 「いいんだいいんだ、ぼくだって忘れることあるよ」と息子。 「走ったら汗かいてあったかくなったね」だって。 ほんとだね。雪が降っているのに、ちっとも寒くない。


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ちびを保育園に送り届けた後、息子の言葉を思い出して心がしんとする。 小さな君がささやかな失敗をしたとき、あんなふうに余裕のある言葉を、お母さんはかけてあげられていただろうか。 「何やってるの! 使い終わったらちゃんとカバンにしまいなさいって言ったでしょう!」なんて、イライラしながら探していたはず。


この冬一番の寒気が来ているというのに、私がちっとも寒くなかったのは、たぶん、鍵を探して走り回ったからじゃない。 大切なことを、お母さんはいつも君から教えてもらっているみたいだ。


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