僕は、そして僕たちはどう生きるか

読んだあと、手の中に、ずっしりとした重みが残る読書がある。

最後のページを閉じてからも、登場人物の何気ないせりふや、物語の中を吹いていた風の香りが自分の中に残っていて、日常のふとした瞬間に顔を出す。

年に何冊か、そういう宝物の本との出会いがあって、巡り会えたときには胸が高鳴る。

この本、梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』もそんな1冊。
語り手のコペルくんは14歳。

訳あってひとり暮らしをしている。

この年齢にしては、かなり大人っぽい少年だ。

土の中で暮らす小さな生き物をこよなく愛する彼は、ある日、叔父で染織家のノボちゃんが仕事で使う植物を探すため、敷地内に森がある屋敷を訪れる。

そこは、コペルが小学生のころ仲が良かった、そして小学6年生のころから学校に来なくなった「ユージン」の家だ。

ユージンもまた、家庭の事情でほぼひとり暮らしをしている。

コペルにユージン、ユージンの従姉できっぱりした性格のショウコも加わって、忘れられない初夏の1日が始まる――

   ♪

梨木香歩の小説は、まるで植物図鑑。

いきいきと描かれる野の草花の生態を読むのも、大きな愉しみだ。

ある種の緊張感をはらみつつも、静かに進んでいく物語を安心して読み進めていたら、中盤、まさかの展開が。

若いひと向けの本だと思って油断していた思考を、金づちで叩き起こされるような衝撃。

読み終えて数日が経つ今も、正解のない問いが頭の片隅で揺さぶりかけてくる。

何を選ぶか。ということよりも、自分の頭で考えて、考えて、脳みそが沸騰するくらいまで考えぬいて、自分の手で選んだという事実が大切なんだろう。たぶん。

そして、「よかったら、ここにおいで」「ここが君の席だよ」と言える力を、自分の中にちゃんと育てたい。

そんなことを、あらためて決意させてくれる読書だった。

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