第2話 自分を大切にできる方法をお茶室で発見した話

「先生、毎回お道具が変わるので、全然お点前を覚えられません!」と泣きごとを言う私を、先生はただにこにこしながら見ている。


「それでいいんですよ。お着物は、自分ひとりで着られるようになったら終わりだったでしょう? でもね、お茶の修行は一生続くの。終わりというものがないんですよ」


「ええっ? そ、そうなんですか? 先生も修行中ということですか?」


「そうよ、もちろん」

自分を大切にできる方法をお茶室で発見した話 | Cue(キュー)

my story, your story 第1話「型にはまりたくなかったフリーランスが、お茶の"かたち"に魅入られた話」 第2話「自分を大切にできる方法をお茶室で発見した話」 10ヶ月前、ひょんなことから「お茶」を習うことになった私。 週末になると母から譲り受けた着物に着替え、いそいそと教室通いを続けている。 新しいもの好きで、ひとつところにじっとしているのが苦手な私が、たった一杯のお茶を淹れて飲むために、狭いお茶室で毎週1時間も正座していると聞いたら、20代の私は目をむいて「ウソでしょ」と言うだろう。 当時の私は、茶道が「古くて」「地味で」「同じことの繰り返し」だと思っていたから。 でも、違った。 想像していた以上に、茶道はドラマティックな世界だった。 ♪ 自慢にもならないが、私はもの覚えが悪い。 ひとつのことを習得するのに、人の倍は時間がかかる。 だからお茶を始めたときも、こっそり『はじめての茶の湯』という写真入りの本を買って、習ったお点前を家で練習してみたりした。 ―実際に私が購入した入門書。 前回教わったことを復習して、先生に褒められるつもりで、ほくほくしながら教室へ行く。 先生はいつものように、にこにこ笑って「さ、どうぞ。お入りください」と教え子たちをお茶室へいざなう。 「本で勉強したもんね♪」と思いながら、水差しを持ってお茶室に入った私は、亭主(お茶を立てる人)が座る場所の前に立って、愕然とする。 そこには、見たことのない、小さい棚のようなものが置いてある。 ―裏千家で使う道具「更好棚(コウコダナ)」の写真。ちなみに、私が通っているのは表千家の教室なので、厳密に言うと「更好棚(コウコダナ)」を使うのは裏千家で。 「えっ…あのう、先生、これは何ですか?」 「それはコウコウダナよ。お道具を置く場所や、手順が少し変わりますからね」 「は、はあ…」 そこで既に、私の頭は真っ白。覚えてきた手順は全部頭から吹き飛んで、「そこで建水が上がる」「ちがうちがう。そこは左手よ」と先生に言われるまま、操り人形のように手を動かすことになる。毎回この調子で、一度として同じお点前というものがない。

Cue[キュー] ー きっかけは、彼女の生き方。

0コメント

  • 1000 / 1000