第3話 転勤族歴38年。初めて本当に住みたい家に巡り合った話

「はい。いいんです。ここに決めました」


私は笑って言った。

転勤族歴38年。初めて本当に住みたい家に巡り合った話 | Cue(キュー)

何気ない日常の中にある大切なきっかけを切り取った、フリーライターみほこさんのライフエッセー。頑張ってるのにうまくいかないとき、退屈な毎日に嫌気がさしたとき、やる気が起きないとき…そっとあなたの心を包んでくれる言葉がここにあります。 my story, your story 第1話「型にはまりたくなかったフリーランスが、お茶の"かたち"に魅入られた話」 第2話「自分を大切にできる方法をお茶室で発見した話」 第3話「転勤族歴38年。初めて本当に住みたい家に巡り合った話」 むやみに引っ越しの多い人生を送ってきた。 転勤族の父親のもとに生まれ、北海道から関東へ大移動。 就職したのもやはり全国転勤のある会社で、今度は関東から関西へ。 結婚した相手がまた転勤族で、東北から沖縄まで、10年で5回の引っ越し。 毎回、会社の都合で慌ただしく引っ越しをするので、「どんな家に住みたいか」なんて、考える余裕もなかった。 辞令が出たら、会社から指定された場所に、期日までに大急ぎで引っ越す。 仲のいい友達とも、お気に入りの場所とも、引っ越しをしたらそれでお別れ。 物心つく前からそんな暮らしだったので、「一生根なし草の人生なんだろうなあ」「まあ、いろんな景色を見られるし、スナフキンみたいでいいか」「本と鉛筆があればどこに住んでも同じだし」というくらいで、大した不満も疑問も抱かず過ごしてきた、つもりだった。 そしてこの春、夫の仕事の都合で、また引っ越しをすることになった。 幸い、今回は長距離引っ越しではないものの、今住んでいる部屋は、同じ会社の別の人が住むので明け渡さなければならない。 これまでと同じように、会社から言われるまま、指定された家に住むこともできる。だけど転勤族歴38年にして突然、なぜか私は思ったのだ。 「今回はどうしても、自分で選んだ、私の好きな家に住みたい」と。 「別の自治体で、次男が入れる保育園を見つけるのは絶望的」とか、 「上の子が小学生になり、学校や習い事が変わるのがかわいそう」とか、 「夫の仕事が多忙すぎるので、少しでも睡眠時間を確保できるよう、できるだけ会社に近いところに住みたい」とか、 もっともらしい理由はいくつかあるのだけれど、理屈では割り切れない、何か逆らいがたい衝動のようなものが、私の中に芽生えていた。

Cue[キュー] ー きっかけは、彼女の生き方。

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