紫陽花の誘惑

分かっていたの。

近づいてはいけないということは。

でも、どうしようもなかった。

あなたの写真をひと目見た瞬間から、ときめきを抑えられなかった。

はやる気持ちを隠して、階段を駆け上がったわ。

最上階の奥の部屋で、あなたは私を待っていた。

初めは遠くから見ていた。

近づいたら、もう二度と離れられなくなることを知っていたから。

何気ないふりをして通り過ぎようとした私を、彼女が呼び止めたの。

ーーよかったら、一度だけ。

一度だけでは終われない。

そのことを分かっていたから、私は三度、断った。

さりとてその場を去ることもできず、ついに拒みきれなくなった私は、あなたの広げた腕の中に包まれてしまった。

ーーああ、やっぱり。

私はため息をついた。

逃れられない運命が、稲光のように私を貫く。

あなたを知らなかった頃の私には、もう戻れないーー

   ♪

「ああ!もう!絶対こうなるって分かっていたから、試着したくなかったんです。もうこの浴衣を残して帰るなんて考えられない。これ、頂きます。帯?もちろんセットで!!」

「はい!ありがとうございます。お客様、とってもよくお似合いですよ」

…というわけで、浴衣、新調しちゃいました♡

夏の呉服売り場、誘惑が多すぎて本当にキケンです!

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