自分が「ひとりぼっち」だと感じるとき

優れた小説というのは、きまって、

「この作者はなぜわたしのことを知っているんだろう」

「これは自分のために書かれた物語だ」と思わせてくれる。

岩城けい『さようなら、オレンジ』もそんな作品。

舞台はオーストラリア。


アフリカから逃れてきた難民のサリマ。

夫に逃げられ、スーパーで肉を捌く仕事をしながら、ふたりの男の子を育てている。


研究職の夫と共に、日本からやってきたハリネズミ。

まだ言葉も話さない子どもを抱え、異国でひとり孤独と闘っている。


職業訓練校の小さな英語教室で、ふたりは出会う。

初めはお互いを異質な者と認識し、距離を保っているが、

ある出来事をきっかけに、深く関わるようになる――


 *


読み進めながら、ハリネズミはわたしだ、と思った。


仕事も友達も、夫以外に親身になってくれる身内もない土地で、

ひとりぼっちという言葉の意味を知った日。


乳飲み子が生まれ、眠ることも思うままにはならない日々の中、

自分にないものばかり数えてじりじりと灼けるような焦りを感じた夜。


子どもがいても、いなくても、

迷い悩みながら生きている女性なら誰でも、

サリマやハリネズミに共感できるんじゃないだろうか。


読者の数だけさまざまな読み方を許す重層的な小説だと思うけれど、

わたしは図書館のシーンがぐっときた。


言葉が違っても、生まれた場所や育った環境が遠く隔たっていても、

人は分かり合い、繋がることができる。

そのことを思い出させてくれる、力強い物語。

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