拡散と集中

1年ぶりに先生のお点前を拝見する。


流れるように自然で、やわらかい動き。


お茶碗を、柄杓を、袱紗を、ひとつひとついつくしむように扱う指先。


  *


最後に柄杓を置くとき、なぜ2滴雫が落ちるまで待つのか。


どうして、たっぷりと汲んだお湯の、上澄みだけをお茶碗に注いで、あとはお釜に戻すのか。


意味が分からないまま「そういうものだから」とやっていた動作、ひとつひとつにすべて意味があったのだと気づく。


  *


頭で考えることを止めて、周りを気にすることもやめて、ただ、今この瞬間の動きにだけ、気持ちを集中する。


お茶室を出て日常へ戻ると、また意識が拡散してしまうけれど、何度でもお茶室へ戻ってきて、ぐぐっと集中する。


その繰り返しなんだろう。


  *

先生が点ててくださった1杯は、ふんわりとまろやかで、本当に美味しかった。


この味を、忘れないようにしよう。


とても安らいだ気持ちで、帰路についた。

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