肩書を放り出して自由になりたいとき

また、雨が降り出した。


空が暗くなってきたと思うと、大きな雨粒が落ちてきて、5分と経たないうちに、夏休みのプールの底が抜けたようなスコールになる。そしてまた、降り出したときと同じように唐突にやむ。さーっと空が明るくなり、生命力の強い植物たちが露をつけてきらきら光っている。


車で走っていると、雨雲の境目―ここまでは地面が濡れているけれど、この先はからからに乾いている―を通ることもたびたびだ。


毎日、そんな調子だから、出かけるときは、洗濯物を外に干せない。外に干しても、常に湿度が高いから、日差しが強いわりに、案外すっきり乾かない。


思うぞんぶん洗濯がしたいものだなあと思っていたら、ちびくまが「おかあさん、これよんで」と絵本を持ってきた。

せんたくかあちゃんは、せんたくが大好き。「きょうもいいてんきだねえ」と言いながら、家じゅうの服や靴やカーテン、動物や子供たちまで、ふというででごしごし洗ってどんどん干してしまう。そして、一言。


「せんたくものをほしたあとは ラムネのんだみたいにすっきりするねえ」


そんなせんたくかあちゃんのところに、ある日うすよごれたかみなりさまが落ちてきて…というお話。


さとうわきこの絵本は、子どものころから大好き。せんたくかあちゃんも、ばばばあちゃんも、自由奔放。そして豪快。「大人はこうあるべき」なんて思い込みは最初から突き抜けて、時には子どもたちよりのびのびと遊んでみせる。


どちらかと言えば、大人の目を気にして、「こうあるべき」という思い込みが行動の基準になっているような子どもだったから、正反対の場所にいるせんたくかあちゃんに、余計憧れたのかもしれない。


三つ子の魂百まで。絵本が擦り切れるまで読んだところで、突然強くて大らかな母ちゃんになれるはずもなく、いたずらざかりの息子を追いかけ回すガミガミ母ちゃんになったわたしだけれど。


絵本を読む時間だけは、幼稚園のピアノの陰で本を読んでいたちびの女の子に戻って、ちびくまと一緒に物語の世界をたっぷり冒険することにしている。こうして一緒に絵本を読んだ時間のかけらが、ちびくまの心のどこかに残って、いつか、どこかで彼の助けになるといい。


わたし自身が、そうやって何度も、数えきれないほど本に助けられてきたように。


「おかあさん、えほんよんで」の時間を、あと何回、ちびと持つことができるかな。

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