線は、僕を描く
度肝を抜かれた。
なんだ、この小説は。
砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社)。
確かに活字を読んでいるはずなのに、脳内に浮かぶのは言葉ではなく、黒い墨で白い紙の上に描かれていく水墨画の映像なのだ。
それはこれまでに経験したことのない、実にふしぎな感覚で、私は何度も途中で読むのをやめ、目をつぶって、何が起こっているのかを確かめた。
こんな読書は初めてだ。初めてだけれど、とても心地いい。
ストーリーも、虚飾を排した水墨画のように美しい。滑らかなラインを描いて一気に進んでいく。
それにしても、絵師である登場人物たちの何と魅力的なことだろう。
そして絵師たちが水墨画を描く場面が、なぜこんなにリアルなのか。一体どんな取材をしたら、こんな真に迫る文章が書けるのだろう。
泣きながら最後のページまで読み切って、著者のプロフィールを見たとき、すべての謎が解けた。
これまでにない読書体験をしてみたい方に、ぜひおすすめしたい名作です。
0コメント