SLOW DOWN
息子、初めての授業参観。
教室に入ったとき、夫が言った。
「あれ、小学生の机って、こんなに小さかったっけ」
そうなんだ。
昔むかし、私たちがまだおちびだったとき、世界のすべてみたいに大きく見えていた教室は、本当は、こんなに小さくてかわいらしい場所だった。
クラスで一番背が大きい息子は、一番後ろの席に座っている。
先生が質問をすると、手をまっすぐ上に、指先までぴしっと伸ばして、指名されるまで何度でもあきらめず挙手をした。
名前を呼ばれると、「はい」と返事をして席を立ち、6歳の彼の、精いっぱいの論理で一生けんめい自分の意見を述べていて、私はものすごく感動してしまった。
もちろん、理由の第一は親ばかなんだけど、それだけじゃなくて。
子ども時代の私は、ずっと引っ込み思案だったから、答えが分かっていても、手を挙げて発表することなんて絶対にできなかった。
間違えることをおそれず、堂々と手を挙げて発表する周りの子たちを見て、みんななんて勇気があるんだろうと思っていた。
「ねえ、今日かっこよかったね」と息子に言ったら、
ちょっと照れた顔で「え? 何が? ふつうだけど」と返ってきた。
「だからさ。発表。お母さんは、子どものころ、君みたいに堂々と喋れなかった。勇気があるなって思ったよ」
「ふうん」
「あのさ、毎日学校楽しい?」
「え? 楽しいにきまってるじゃん」
「よかった。どんなとき楽しいの? しょうくん(友達)と遊んでるとき?」
「うーん。それも楽しいけどさ、全部楽しいよ。学校も、学童も、空手も楽しい」
そうかあ。全部楽しいのか。
よかったなあ。本当によかった。
敏感すぎる子どもだった私は、学校という場所へ行くのがとてもつらかった。
だから、私と同じ気質をちょっと受け継いでいる息子が、人生って楽しい、自分が大好きと思えるように、ほかはいろいろ抜けが多いけど、そこだけは手を抜かず一生けんめい育ててきたつもりだから、本当にうれしかった。
ほんとは気づいている。
子どもの成長を助けているつもりで、毎日助けられているのは、自分だってこと。
人生って楽しい、自分が大好きと思えるように、君たちから育ててもらっているのは、お母さんの方だってこと。
赤ちゃんのときから成長が速かった君は、きっと、あっという間にお母さんの背丈を追い越して、自分の道を駆け出していく。
だから今日は、久しぶりに手をつないで、家に帰ろう。
そんなに速く歩かなくていいよ。
もうちょっとゆっくり。
ほんの少し前、君が初めて歩き始めたときの、その速さで。
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